大乗神楽の演目を理解する為に

「大乗神楽は本地垂迹説に基づいて舞う」

本地垂迹(ほんちすいじゃく)とは、仏教が興隆した時代に表れた神仏習合思想の一つで、日本の八百万の神々は、実は様々な仏(天部なども含む)が化身として日本の地に現れた権現(ごんげん)であるとする考えです。

「権」とは「権大納言」などと同じく「臨時の」「仮の」という意味で、仏が「仮に」神の形を取って「現れた」ことを示す。「垂迹」とは神仏が現れることを言います。

鎌倉時代になると、逆に仏が神の権化であると考える神本仏迹説も現れました。大乗神楽の本地垂迹は、和賀地方独自の解釈もあり各団体一様ではありません。

 

権現舞

権現とは、仏が衆生済度(生あるものの悩みを救い悟らせる)のために、仮の姿(獅子頭)で現れる事です。権現様は、神社の祭神や産土神を自らに降ろして地域の安泰・五穀豊穣・人々の無病息災を祈祷します。

 

七つ釜(ななつがま)

神話の天地開闢にまつわる舞です。「古事記」と「日本書紀」の七神は、異なりますが、国土のあらゆるものを七神で作った物語を舞にしています。

第一の神は、天体を司り国土を作り・第二の神は、水体を司り草木を作り・第三の神は、軍を司り仏法を定め・第四の神は、和歌を司り情けを与え・第五の神は、五穀を司り人間を養い・第六の神は、風体を司り礼節を定め、第七の神は、夫婦を司り人間界(衆生)を作ったと解釈されます。

面を付けず七人が鳥兜・常衣・袴姿で扇と錫杖を持ちゆったりと舞います。

大乗神楽では、必ず一番目に舞います。

1, 国之常立神(くにのとこたちのかみ)天地開闢の最初に現れた神世七代の第一の神

2, 豊雲野神(とよぐものかみ)豊に富み足りた国をあらわす

3, 宇比地邇神(うひじにのかみ)須比智邇神(すひじのかみ)大地が泥や砂でやや形を成した状態

4, 角杙神(つぬぐいのかみ)活杙神(いくぐいのかみ)泥土がしだいに固まって生き物が生まれ、育まれて行く力が得られた。森羅万象万物がこの二柱神に力によって生まれた。

5, 意富斗能地神(おおとのぢのかみ)大斗乃弁神(おおとのべのかみ)大地が完全に固まった時の神

6, 淤母陀琉神(おもだるのかみ)阿夜詞志古泥神(あやかしこねのかみ)男神は大地の表面が出来上がった意味。女神は大地が完成した意味の美称。本地垂迹では天界の最高位の第六天になる。

7, 伊邪那岐神(いざなぎのかみ)伊邪那美神(いざなみのかみ)天神七代最後の神我が国最初の夫婦神。伊邪那岐神は天照大神の親だが皇祖神ではない。結婚の神。日本での神話では「人類の起源神」とされる。

 

庭  静(にわしずめ)

天岩戸の前を清める舞と言われております。

垂迹神は、「國常立尊」で本地仏は、小比叡権現とされています。

國常立尊(クニトコタチノミコト)とは、「七ツ釜」で舞われる七神の1神で古事記では「国之常立神」、日本書紀では「國常立尊」で一番目の神となっています。

神名は国土の創造を表すとか、国が未来永劫立ち続けるなどいろいろな説があります。一番目に現れたことから神道では重視され始源神とか根源神とか元神などと考えられてきました。記紀神話にある國常立尊(國之常立)はいずれ天地開闢に関わる重要な神と位置づけられているようです。

小比叡権現とは、比叡山延暦寺の守護神七社(大宮・二宮・聖真子・八王子・客人・十禅師・三宮)の二宮の神で二宮権現とか地主権現と言われています。古事記でも「大山咋神また山末之大主神と言い比叡山(日枝山)に坐す神」とされています。

また二宮(小比叡権現)を天神第一の國常立尊として地主神とする説があり、ここで二つの神の関係が見えますが、小比叡権現は、薬師如来・華臺菩薩(伝教大師が授けた)・地蔵菩薩としています。

小比叡権現は、三十番神の一八番神でもあります。三十番神とは、三〇日間日替わりで国や法華経を守る神達です。最澄(伝教大師)が最初に祀ったのが始まりとも言われています。

三十番神 さんじゅうばんじん

1日 熱田大明神

2日 諏訪大明神

 

3日 広田大明神

4日 気比大明神

 

5日 気多大明神

6日 鹿島大明神

 

7日 北野大明神

8日 江文大明神

 

9日 貴船大明神

10日 天照皇太神

 

11日 八幡大菩薩

12日 加茂大明神

 

13日 松尾大明神

14日 大原大明神

 

15日 春日大明神

16日 平野大明神

 

17日 大比叡権現

18日 小比叡権現

 

19日 聖真子権現

20日 客人権現

 

21日 八王子権現

22日 稲荷大明神

 

23日 住吉大明神

24日 祇園大明神

 

25日 赤山大明神

26日 健部大明神

 

27日 三上大明神

28日 兵主大明神

 

29日 苗鹿大明神

30日 吉備大明神

 

 

天岩戸の前をどうして國常立尊が清めるかは定かではありません。

庭静の舞は、盛岡地方の神楽にも演目としてあり、大宮神楽では「にわすずめ」と称しています。

 

普 勝(ふしょう)

國挟槌尊(くにのさつちのみこと)が垂迹神で八王子権現が本地とされています。天の二十八宿・地の三十六金(禽)の垂迹と言われます。

國挟槌尊は、「庭静」と同じ日本書紀に出てくる天地開闢の七神で國常立尊の次・二番目に出てきますが、古事記の二番目は豊雲野神(とよぐもぬのかみ)です。 

ちなみに記紀神話の神世七代を比較すると古事記は

1, 国之常立神(くにのとこたちのかみ)

2, 豊雲野神(とよぐもぬのかみ)

3, 宇比邇神(ういじのかみ)・須比智邇神(すいじのかみ)

4, 角杙神(つぬぐいのかみ)・活杙神(いくぐいのかみ)

5, 意富斗能地神(おおとのじのかみ)・ 大斗乃弁神(おおとのべのかみ)

6, 淤母陀琉神(おもだるのかみ) ・阿夜訶志古泥神(あやかしこねのみ)

7, 伊邪那岐神(いざなぎのかみ)・伊邪那美神(いざなみのかみ)             (左側が男神、右側が女神)                                    日本書紀は

1、 国常立尊(くにのとこたちのみこと)

2、 国狭槌尊(くにのさつちのみこと)

3、 豊斟渟尊(とよぐもぬのみこと)

4、 泥土煮尊(ういじにのみこと)・沙土煮尊(すいじにのみこと)

5、 大戸之道尊(おおとのじのみこと)・大苫辺尊(おおとまべのみこと)

6、 面足尊 (おもだるのみこと) ・惶根尊 (かしこねのみこと)

7、 伊弉諾尊 (いざなぎのみこと)・伊弉冉尊 (いざなみのみこと)

となっており、天地定まらない混沌とした神世に現れたのが以上の七神でひとり神から次第に夫婦神となりイザナギイザナミの神から多くの神が誕生したと言う筋書きになっていますが、國常立尊から三番目までは詳しくは記されていません。

国狭槌尊(くにのさつちのみこと)は、どのような役割を果たした神かは明らかではありません。京都御霊神社では、「月霊」として祀っています。

八王子権現とは、天照大神(あまてらすおおみかみ)と素戔嗚尊(スサノヲノミコト)が誓約(うけい)をした時に生まれた五柱の男神と三柱の女神。別名、五男三女神。

正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミ)

天之菩卑能命(アメノホヒ)

天津日子根命(アマツヒコネ)

活津日子根命(イクツヒコネ)

熊野久須毘命(クマノクスビ)

多紀理毘売命(タキリビメ)

市寸島比売命(イチキシマヒメ)

多岐都比売命(タキツヒメ)

以上八神です。

滋賀県の山王七社権現の八王子は、「国狭槌尊ナリ 十代崇神天皇元年志賀ノ郡大嶽ノ傍ニ降リ玉フ 陵山明神 本地千手 」(日吉山王・仏像図彙)とされており本地仏は、千手観音とされています。

天の二十八宿とは、古代中国の星座名で黄道に近い天空を28に分け、それぞれを宿と呼び星座名つけたものです。月は27,3日で一周するために季節を正す為に設けられたものです。高松塚古墳の天井にはこの星座が描かれています。

東方七宿  角・亢・テイ・房・心・尾・箕

北方七宿  斗・牛・女・虚・危・室・壁

西方七宿  奎・婁・胃・昴・畢・觜・参

南方七宿  井・鬼・柳・星・張・翼・軫

       

の28宿になっています。

「地の三十六金」とは、何なのか不明ですが、「金」が「禽」という表記もあることから広辞苑で見ると、地の36禽を「昼夜12時の各自に一獣を配し、それぞれに二つずつ属獣がついた。占いに用いられ、また仏教では「それぞれの時に出現し修行僧を悩ます」とあり、「狸、豹、虎、狐、兎、狢(ムジナ)、龍、蛟(ミズチ)、魚、蝉、鯉、蛇、鹿、馬、麕(ノロ)、羊、雁、鷹、(ユオウ)、猿、猴、鳥、鶏、雉、狗(イヌ)、狼、犲(ヤマイヌ)、豚、(ユウ)、猪、猫、鼠、蝙蝠(コウモリ)、牛、蟹、鼈(スッポン)」以上の動物当てられています。地の36禽は、天の28宿の眷属とされています。

弓の小笠原流の重藤弓に巻かれる数は、天の28宿、地の36禽とされ、「28宿の悪星(牛宿)を嫌う人がいるので巻かない」とされています。

 

不動明王の眷属に三十六童子を従えると言う説があります。

36 童子        真言

1矜迦羅童子   おん ばらさき たつたり そわか

2制叱迦童子   おん しゆと とば うんばつた

3不動恵童子   おん しゆまり ばさら だんかん

4光網勝童子   おん そば ろぎ ばった ばった そわか

5無垢光童子   のうまく からばん きりく

6計子爾童子   おん かく まり そわか

7智慧幢童子   おん そんば さんば さんばんそわか

8質多羅童子   おん たらまち しつたら うんばつた

9召請光童子   おん まり ままり しゆまり しゑまり とどまり ばつた

10不思議童子  おん ろけい そわか

11羅多羅童子  おん らた らた らま そわか

12波羅波羅童子 おん はら しつ びたまに あんをん そわか

13伊醯羅童子  おん だぎに ゑい そわか

14獅子光童子  おん まり たりたり そわか

15獅子慧童子  おん まい たりや そわか

16阿婆羅底童子 のうまく けん  さくそわか

17持堅婆童子  おん まんしん だらに そまや そわか

18利車毘童子  おん しばれい そわか

19法挟護童子  おん ぎやきてい とんばんば きりく

20因陀羅童子  おん いんだらや そわか

21大光明童子  のうまく さまんだ かんまん きりく

22小光明童子  おん しんばら そわか

23仏守護童子  おん あぼぎや ばだらや そわか

24法守護童子  おん きまれい そわか

25僧守護童子  きりく さんばん たらく

26金剛護童子  おん だきに ゑい きりく そわか

27虚空護童子  おん めいが しやに へんばら うん そわか

28虚空蔵童子  おん そんやば そんやば そわか

29宝蔵護童子  おん まか きやらば そわか

30吉祥妙童子  おん びだまや そわか

31戒光慧童子  おん さらいて さらいて そわか

32妙空蔵童子  おん こうなん とくじつ そわか

33普香王童子  おん あい びしやに はつた はつた そわか

34ぜんにし童子 おん はんめい ばざやら きしやうん

35波利迦童子  おん けん まにまに そわか

36烏婆計童子  おん たらまや きりく そわか

 

その他、近畿三十六不動尊と言うのがあり、本山派聖護院や当山派醍醐寺、比叡山無動寺明王堂、高野山など著名な寺院が含まれています。

また「三十六計逃ぐるに如かず」と言う様な中国古代兵法から三十六の文字が見えます。

さらに宮崎県西米良村村所神楽の「荒神」舞の問答では、神主が五行八宿の理を述べ荒神は、「それは神事礼法に垂れ合う物を 白蓋というなり 是すなわち天を恐れ 地を恐るるをいう 天上幸いおこないの時は 天の御影 日の御影というなり(中略)これによりて人々母の胎内に宿る時、えなをかむいて宿ること全くこれに同じ(中略)それいかんとあらば その母百味百毒を食するとも 懐胎の子は一味の毒にあたらず 是天地一同相の理想に同じ これによりて白蓋の形を作る 天の二十八宿 地の三十六金土 合わせて六尺四寸に形取るなり 色相をあらわすこと 五色五行の形なり(以下略)」と応じています。「白蓋」とは天蓋のことで、「天=宇宙」を表し「えな」とは「胞衣」のことで、母の胎内で胎児を包む皮膜のことであるとされています。荒神とは大いなる宇宙神であり、母のごとき土地神であったと理解されています。

いずれ36という数字は、三十六歌仙や三十六人衆・京都東山の三十六峰などに使われています。

普勝は、いずれ荒々しい神が祈祷して人々の幸いをもたらす舞いと考えられます。早池峰系では、諷誦という文字で表されており荒々しい神の舞いです。盛岡周辺の神楽にも「ふうしょう」と言う名称が見られます。

 

魔 王(まおう)

「山ノ神」とも言われています。

「魔王」の垂迹神は、「降伏金剛夜叉明王」で本地仏は「天鼓雷音仏(てんくらいおんぶつ)」とされ、解釈ではイザナギ・イザナミの子どもで海神・水神・風神・木神・火神と兄弟であるとされています。

「明王」は密教系の神で様々な悪を打ち砕く役目を持ち、天鼓雷音如来は、徳を成就させる仏とされています。その事から悪魔を降伏させ人々に繁栄をもたらす祈祷舞と考えられています。

眼を怒らせ歯をむき出した憤怒の面を付け、頭にザイをかむり、常衣・袴姿で刀を腰に差して一人で舞います。

 

七五三(しめきり)

天岩戸の前に張った注連縄を切る歳殺神・黄幡神・豹尾神の三神の舞いとされています。

この三神は、牛頭天王の八人の子供達で八方位の吉凶神で八将神です。

太歳神 (総光天) 木星(歳星:さいせい)の精といわれ、四季の万物の成長を見守る吉神。

大将軍 (魔王天王) 金星(太白星:たいはくせい)の精といわれ、金性のであることから、万物を殺伐する凶神であり、軍人の神とされる。

太陰神 (倶魔羅天王) 土星(填星てんせい)の精であり、太歳神の后である。

歳刑神 (得達神天王) 水星(辰星しんせい)の精。刑罰を司る凶神である。

歳破神 (良侍天王) 大陰神とは親戚で、同じく土星の精とされ、死亡と盗賊を司る凶神。

歳殺神 (侍神相天王) 金星(太白星たいはくせい)の精。大将軍の親戚で、殺伐を司る凶神。

黄幡神 (羅光星・宅神相天王) 月日の光をおおって「食」を起こすと言われる想像上の星。羅ごう星の精で、土を司る凶神。

豹尾神 (計斗星・蛇毒気神天王) 想像上の星、計都星(けいとせい)の精で、常に黄幡神の正反対に在位する。

方位神は、古代中国の民間信仰の九星占いから発生しています。

大乗神楽では歳殺神の本地仏は、千手観音菩薩。黄幡神は、胎蔵界大日如来。豹尾神は、金剛界大日如来としています。

千手観音菩薩は、名前の通り千本の手を持ち、どの様な衆生をも漏らさず救済する観音の慈悲と力の大きさを現しています。

 胎蔵界大日如来と金剛界大日如来は、密教の曼陀羅と言う多くの仏や菩薩を一定の方式で整然と描いた二つの図の中心にいます。大日如来の説く真理や悟りの境地を視覚的に現しており胎蔵界は、体内の出産以前の姿で、金剛界は仏の煩悩を破壊する力を示していると言います。

この様に慈悲深い智慧のある仏達が、凶神の姿で天の岩戸の注連縄を切り落とすと言う設定の舞いです。一方天の岩戸の注連縄は、天照大神が現れたので再び岩屋に入らないように封印する為に張ったとも言われています。

 

地  讃(じぼめ)

八幡舞とも言います。八幡大菩薩(本地仏は阿弥陀仏)と天児屋根尊(あめのこやねのみこと)(本地仏は観音)の二人舞で弓矢を持って悪魔払いをします。天児屋根尊から3代目の系譜に「宇佐津姫」がおり、宇佐八幡宮以前の神と考えられます。天児屋根尊は、岩戸開きで祝詞を唱えた神で祝詞の祖神とされ中臣鎌足(藤原氏)の守護神でした。

奈良東大寺建立に当たって八幡神が協力したことから仏教の守護神として八幡大菩薩の神号が与えられ全国の寺に広まったとされています。この様な2神の由来と関係が説かれ舞われると考えられます。弓矢の神徳をたたえ、四方に矢を射て悪魔払いをします。

 

荒  神(こうじん)

「荒神」は、字のごとく荒ぶる神の舞です。和賀大乗神楽の荒神は、憤怒の赤面で三つの目を持っています。三つの目は、飢渇神・貪欲神・障礙神でそれぞれに災いをもたらす神ですが、日本古来より神には「荒魂」と「和魂」の2つの側面があると解釈され荒ぶる神への信心が平和や豊かさをもたらすと考えられてきました。

荒神の舞では、四本の幣束を北東(鬼門)と東西(病門)、更に南東(風門)と北西(乾天門)に立て祈祷し四方より大龍(災い)の侵入を防ぎ、幸いと豊かさを招きます。

荒神は、カマドの神様として一般的ですが、謂われは定かではありません。火は煮炊きや暖をとる有益さと火事のように財産を焼き尽くす恐ろしさの二面がある事と関係しているのかも知れません。また火を自在に操る「不動明王」と言う説もあります。

三宝荒神については、信仰の違いによって様々な解釈があり、垂迹神と本地仏も違うようです。ちなみに日蓮は、「飢渇神・貪欲神・障礙神は、三毒即ち三徳となる」としています。また弘法大師の説と伝えられる「三は仏教の三昧」で三宝荒神は文殊菩薩とされ「心いらだつときは荒神となり、心静かなときは如来となる」としています。

民間伝承では、古事記の「こは諸人のもち拝く竈の神なり」とあり「大年神」「奥津日子神」「奥津比売神」であるとして三宝荒神は、「大年神」だとしています。

一方仏教的解釈によって「仏・法・僧」の三宝と言われています。

和賀大乗神楽では、荒神は「三面大国」が垂迹神で本地仏は「普賢菩薩」とされています。三面大国は、「三面大黒天」と考えられますが、「大黒天」「毘沙門天」「弁財天」の三神で伝教大師が天台宗の発展に延暦寺に祀ったのが始めで全国に広まったものです。

「大国」は「大黒」ですが、元々破壊と豊穣の神でしたが豊穣が残り食物と財福の神となったようで、出雲神話の大国主と習合して古くから信仰されてきたようです。

いずれ「荒神」への信仰は、「災い転じて福となす」と言うような庶民が身近に感じる思いがあるようです。

 

王の目(おうのめ)

七つ釜に登場する第七の神、伊邪那岐神・伊邪那美神の夫婦神が伊勢の内宮・外宮を建てる時に加持祈祷をする舞と言われます。伊邪那岐神の本地仏は、毘廬遮那仏(びるしゃなぶつ)で、伊邪那美神は、白山大権現とされています。毘廬遮那仏は奈良東大寺の大仏の名前で大乗仏教の経典「華厳経」に出てくる知恵と慈悲の光明を遍く照らす仏です。白山大権現は、養老2年(718年)に修験僧泰澄大師が修行した加賀の国白山の神です。白山神社の総本社白山比咩神社の祭神は、菊理媛神(白山媛命)(くくりのひめのかみ)とされ黄泉平坂で逃げる伊邪那岐神とそれを追う伊邪那美神の言い合いの際、この姫が伊邪那岐神に助言をしたことで無事脱出できた。(日本書紀)伊邪那岐神・伊邪那美神の二柱も共に祀られています。

 

帝 童(ていどう)

帝童は、龍女で本地仏は師子音仏とされています。後生の考を願って舞うとされています。後生とは、来世のことで、幕掛け言事に「ようよう急ぎ行く程に熊野詣りの帝童に」とあり考を願って熊野に行く様子が伺えます。考とは、一般に儒教の徳目で親孝行と考えられます。更に「立ち巡れば科はなお勝る」「鏡見れば」「袂取れば」など女性の日常的な仕草を取り入れており、大乗神楽唯一の女舞いです。

 龍女は、仏教の守り神「竜神」で八才にして「文殊が竜宮で法華経を説くと龍女は瞬時に悟りに達し」たが、舎利佛は、女人は穢れているから成仏出来ないと説きました。しかし龍女は宝珠を釈迦に奉ったところ男子に変じて成仏したと言う説教で10世紀頃から普及した模様です。戦後は、女性蔑視の観点から改まっています。

法華経によると師子音仏は、三十日秘仏の九日仏「大通智勝仏」の16人の子供の一人で、東南方(八方ある)の仏になったと言われます。大通智勝仏は、釈迦に教えを説いた仏の一人です。

1 2 3 4 5 6

定光仏

妙見菩薩

燈明仏

多宝仏

阿閃仏

弥勒菩薩

水天宮 二万灯明仏

 

7 8 9 10 11 12

三万灯明仏

千手観音

薬師如来

八幡宮 大通智勝仏

日月灯明仏

金毘羅様 歓喜仏

難勝仏

薬師如来

 

13 14 15 16 17 18

虚空蔵菩薩

日蓮聖人 普賢菩薩

阿弥陀如来

妙見菩薩

陀羅尼菩薩

閻魔王

龍樹菩薩

青龍権現 観音菩薩

鬼子母神

 

19 20 21 22 23 24

日光菩薩

七面天女 月光菩薩

無尽意菩薩

飯縄権現 施無畏菩薩 

大勢至菩薩

地蔵菩薩

愛宕権現

25 26 27 28 29 30

文殊師利菩薩

天満天神 薬上菩薩

盧遮那仏

大日如来

不動明王

三宝荒神

薬王菩薩

釈迦如来

 

 

帝童の追っかけ

黒のひょっとこ面を付けた道化が帝童を追っかけます。胴と掛け合いながら女を出せと面白おかしく進めます。胴が「あねっこなら唐の天竺まで行ってしまった」と言うと追いかける言って踊り出し天竺での短歌を交えた面白いやり取りを語ります。

 

笹結(ささむすび)

この舞では、天御中主尊と猿田彦尊が笹を持って舞います。天御中主尊の本地は、毘廬遮那仏で猿田彦尊は、小比叡権現です。天御中主尊とは、古事記では天地開闢に高天原に最初に出現した神でその後高御産巣日神と神産巣日神が現れました。この神々を造化三神と言います。猿田彦尊は、天孫光臨の際、天照大神の孫のニニギノミコトが高天原から葦原中国に向かう途中、あたりを照らし道案内をした神です。猿田彦尊は、地上界の神と言われる国津神で。

 

 

薬 師(やくし) 

垂迹神は江文大明神(えぶみ)で小川や谷・峰より悪水(疫病などの元凶)が湧き出る時、瑠璃の瓶より薬を出して善き清水にする病魔退散の祈祷舞いです。33番の番外編の舞いです。薬師は薬師如来で牛頭天王やスサノウの本地仏でもあります。

江文大明神は、三十番神の一人で8日を守護しています。三十日秘仏では薬師如来の縁日に当たります。明神とは、豊臣秀吉が豊国大明神などと自らを称したように神は仮の姿ではなく明らかな姿で現れると言う解釈です。大明神は、明神の尊んだ言い方です。江文大明神は、江州(ごうしゅう・近江の国)にあった明神で本地仏は弁財天とされています。弁財天は、仏教守護神の天部の一つで本来仏教の尊格ですが神と見なされています。滋賀県には弁財天を祀る歴史のある長浜の宝厳寺があり、昔は比叡山の傘下にありました。

 

三番叟(さんばそう)

大乗神楽では、翁舞いとして位置づけられています。黒面で滑稽なしぐさや追っかけもあります。翁は、人々が末永く無事で長生きできる事を神歌にのって四方を踏み固め、邪悪を浄化させる舞いです。

 

鐘  巻(金巻・かねまき)

 鎌倉開山伏屋と言う長者の一人娘が全国の寺を巡って有名な紀州(和歌山県)由良の鐘巻寺を参拝に訪れました。住職が、この寺には5つに7つの不思議があって女人は詣でられない、更にその昔女人が鐘を突こうとするとたちまち邪身(蛇身)になったので帰りなさいと諭しましたが、娘は振り切って鐘を突いてしまい邪身になってしまいます。そこに客僧(熊野の修験者)が「近峰山(金峰山)33度、羽黒山にも33度、桂木山(葛城山)も33度合わせて99度も修行した」と述べながら娘が邪身となったと聞き及んだので加持祈祷して成仏させてあげよう現れます。蛇身が出てくるまで客層は、道化て見物人を楽しませます。早く蛇の面を見たいと胴取りとやり取りすると蛇身になった娘が飛び出し客層と闘います。

 この物語も構成から女人成仏を語ったもので山伏の力を示した演目です。

この物語は、狂言や歌舞伎の道成寺の元になっていますが、ここでは由良の鐘巻寺と設定されています。

 

大乗の下(だいじょうのした)

装束は、鳥甲をかぶり、常衣を着て、錫杖と扇を持ち、直面の一人舞です。垂迹神は、加茂大明神で、その本地仏は、難勝仏とされています。難勝仏は、三十日秘仏の十二日仏で『佛神霊像図彙』の解説文では「経曰智悲行徳勝餘尊故名」と記されます。

 

榊(さかき)

大乗神楽最高の祈祷舞いで、法印の資格を有する者しか舞えません。

法印の資格を得るには、7日間神社や寺に籠もって呪法や舞いを修行します。その間、肉・魚は禁止、修行者以外の火を用いてはならないなど厳しい仕来りがあります。

榊の垂迹神は、軍陀利夜叉明王で本地仏は金剛界宝生如来です。軍陀利夜叉明王は、不動明王を中心とする五大明王の一人で人間界と仏界を隔てる天界にいる南方の守護神です。明王は火の世界に住み、炎の神力で祈願すると言われます。その他、東は降三世明王、西は大威徳明王、北は金剛夜叉明王です。

宝生如来は、密教の金剛界五仏(五大如来)の一仏で大日如来(中央)の南方に位置します。その他、東は阿閃如来、西は阿弥陀如来、北は不空成就仏です。

宝生如来は、字のごとくいろいろな宝を生み出す福徳の仏で、あらゆるものは平等であるという精神を説くとされています。

如来は温和に正法を説きますが、煩悩の虜になった救いがたい者は明王が真っ向から憤怒の形相で正法に導くとされています。

榊の舞いは、手次や踏み足の所作、九字(手印)など随所に修験の呪法が強く残る祈祷舞いです。

榊舞には、「初夜」と「後夜」があり、昼は「初夜」を舞い、夜は「後夜」を舞います。

言事が多少違いますが舞はほとんど同じです。